始まりの時  1





 かくて激闘の末に、伝説から蘇った魔獣は彼らの前に倒れた。
 闘いの傷を術で癒し、安息の宿を求めて、一行は最寄の村への岐路を辿る。全身に疲労を抱えながらも戦いを制した彼らの足は軽く、勝利のもたらす高揚感に心は浮き立っていた。

「もう、何言ってんのよっ!このクラゲーー!!」
 小気味良い音を響かせながら、栗毛の魔導師が金髪の剣士の頭をスリッパではたく。台詞に容赦はなかったが、その声がとても嬉しそうに聞こえるのは気のせいではないだろう。はたかれた頭をさすりながら文句を言う剣士の声も、楽しげに弾んでいる。
 それを見てくすくすと笑いながら、黒髪の少女は隣の男に話しかけた。
「ふふっ、リナってば本当に嬉しそう。ね、そう思いませんか? ゼルガディスさん」
 話しかけられた男も、彼にしては珍しく目を細め、口の端を吊り上げて返事をした。
「ああ。なんだかんだ言って、旦那と一緒に居れて嬉しいんだろうさ」
 ですよねっ、と満面の笑みで跳びはねる少女に目をやり、彼もつられて、表情を緩ませた。そしてふと、根源的な疑問にぶち当たり、歩みを止めた。
 いきなり立ち止まった男に、少女は訝しげな顔で振り返った。小首を傾げる彼女をまじまじと見詰め、今更ながら、彼は思った。

 そういえばこいつ、何なんだ?





「ああ、でもよかったー。ゼルガディスさんがいて。リナと一緒のテーブルに着くと、ちゃんとご飯が食べられなくて困ってたんですよ。それにちょっと、恥ずかしいし。でも一人で食べるのは淋しいですもんねー」
 そう言ってアメリアは、嬉しそうにメニューを開いた。
 知り合ってから現在までの、そう長くはない時間の中で、あれだけ恥ずかしい台詞の数々をのたまっておきながら今更恥ずかしいとか言うか? 心の中でつっこみつつも、ゼルガディスは口には出さなかった。

 彼らは今、辿り着いた宿屋兼食堂で、少し早めの夕食を取ろうとしていた。
 食堂に入るなり、リナとガウリイは驚くほどの俊敏さで席を陣取った。彼らに続いてゼルガディスとアメリアも、彼らからは少し離れたテーブルに腰を落ち着かせた。とてもじゃないが、彼らと同じ食卓には着けない。
 いつまでも止まらない夕食のオーダーを背中に聞きながら、彼は内心冷や汗を掻く。そんな彼の内情を知ってか知らずか。アメリアはにこにこと彼に話しかけていた。
「いくらなんでも食べすぎよね、二人とも。そりゃ今日はすっごく疲れましたけど、あの量は異常だわ。あ、まさか、ゼルガディスさんもそんなに食べるなんてことは、ありませんよね?」
 神妙な顔で問われた質問に、首を振りながらゼルガディスは答える。
「無茶を言うな。あんなのと一緒にしないでくれ」
「あはは、そうですよね。ごめんなさい。あー、ゼルガディスさんが普通の人で、本当に良かったー!」
 それを聞いて、ゼルガディスの動きが止まる。
 普通の人? 俺が? こいつ、本気で言ってるのか?
 彼女の顔は先と変わらず、相変わらずのニコニコ顔である。心底嬉しそうなその顔からは、何の含みも感じ取れない。
「……あんた今、俺のことを普通の人と言ったのか?」
「ええ、そうですけど。普通じゃないんですか?」
 彼女は不思議そうに首を傾げた。
「どこをどう見たら、そんな風に見えるんだ?」
「どこをどう見たらって……あ、そっか。外見のことですね! なかなか個性的で、かっこいいと思いますよ!」
「……個性的……」
「カラーリングも斬新だしっ!」
「…………斬新なカラーリング……」
 思わず反復するゼルガディス。
 褒め言葉のつもりなのか、それとも高度な嫌がらせなのか。
 今の今まで、自分の外見についてそのように評されたことは、もちろん一度たりとも無い。彼の前ではそのことについて、皆見て見ぬ振りをしていた。さもなくば一言、化け物、と吐き捨てた。
 全く新しい態度を示す目の前の彼女に、自分は怒るべきなのだろうかと、彼は少し悩んだ。だが、彼女はそんなことには気付きもしないようで、やおらメニューから顔を上げると、厨房に向かい手を振った。
「すみませーん! こっちにシェフのお任せディナー、デザートはベリーのタルトでお願いします。ゼルガディスさんはどーします?」
「……同じのでいい。デザートは無しで」
「えー! そんなもったいないですよっ! どれもおいしそーなのにっ!!」
「俺はいらん」
「あの、じゃあ私がもらっちゃってもいいですか? ちょっぴり気になるメニューがあって、ベリータルトと迷ってて…」
「勝手にしろ」
 ゼルガディスがそう吐き捨てるように言うと、アメリアは嬉しそうに礼を言い、彼のためのディナーと彼女のためのデザートを注文した。ちなみに今度のデザートは『苺のアングレーズ』だった。

 よく食べ、よくしゃべるアメリアを見ながら、ゼルガディスは感心半分、呆れ半分で食事を取っていた。
 よくもまあ、あれだけ口が動くものだ。
 先程からおざなりな相槌を打つだけのゼルガディスに比べ、アメリアは一口食べるごとに話しかけている。時には大きく、身振り手振りまで交えながら。しかし食べるスピードは、ゼルガディスと変わらない。そのくせ彼女の仕草にがっついたようなところは、全く見当たらない。
 見れば見るほど不思議な少女に、ゼルガディスも興味が無いではなかった。何よりも、あの「どらまた」について行こうという少女だ。

「なあ、あんた、そもそもなんでリナなんかについて行こうと思ったんだ?」
 食事を始めてから、初めて主語と述語のある文章を発したゼルガディスに、アメリアは一瞬目を見張った。しかしすぐに笑顔になると、嬉しそうに語り始めた。
「良くぞ聞いてくれましたっ!! あれはリナと初めて会った時。その時から何となく感じてはいたんだけど、いっしょにゴタゴタを解決しているうちに、確信したのっ! リナを中心として、何か、悪しきことが起ころうとしているって!! だからわたしはそれを見極めるため、そしてそれが悪ならばこの手で正義の鉄槌を下すため、共に旅することを決意したのよっ!!!」
 最初は普通に話していた彼女だったが、最後の言葉を言い終えたときには椅子の上に立ち上がり、拳を高く振り上げていた。免疫の無いゼルガディスは放心状態で、ただ見ていることしかできなかった。
 そのとき、一条の銀の光が彼女の鼻先を掠め、その先の壁へと音を立てて突き刺さった。肉用のフォークが、その柄の近くまで壁にもぐりこんでいる。アメリアの顔は蒼白になり、ちょうど彼の左背後あたりの一点を見詰め、ダラダラと汗を流している。ゼルガディスには振り返らずとも、そこから流れる怒りの気配でわかった。リナ=インバースがそこにいる。

「…………とりあえず、座ったらどうだ」
「はっ! そ、そーですねっ」
 ゼルガディスの言葉でやっと我に返ったのか、アメリアはギクシャクと動き出し、椅子から降りた。突然始まった演説と空を切って飛ぶフォークという一連の流れに、こちらに向けられていた注目も、だんだん薄れていく。
 改めて席についた彼女を見て、彼はため息をついた。しかしそれは、先程よりもトーンが落ちているものの、それでもなお楽しげな彼女の声に吹き飛ばされた。
「という訳でですね、悪を打ち倒すため、私はリナについて行くことにしたんです」
「良くわかった。もうしゃべらんでくれ」
 一体どんな訳だったのか、無論、彼にはわからなかった。彼にわかったのは、彼女にしゃべらせてもロクなことにならないという、純然たる事実だけだった。だがその事実に、当の本人はまだ気が付いていないらしかった。
「ゼルガディスさんっ、なんですかその言い方は! わたしはあなたに聞かれたから話したんですよ」
「わかった。あんたに話を振った俺が悪かった。だから黙っててくれ」
「嫌です! それに、さっきからあんたって呼ぶの、やめてください。わたしはアメリアです!」
「あんたが黙ってたら呼んでやるよ」
「ああっ、またっ!! いいですか、わたしはアメリア=ウィル=テスラ=セイルーン! あんたじゃなくて、アメリアです!!」
「あんたがどんな名前だろうが……って、セイルーン?」
 ゼルガディスの語尾は不自然に上がっていた。それを受け、当然のようにアメリアは答えた。
「ええ、アメリア=ウィル=テスラ=セイルーンですっ! いちおー、王族ですから」
「…………」
 突然黙り込んだゼルガディスに、アメリアは訝しげに首をかしげた。しかし、すぐに心得たとばかりに頷くと、笑顔で口を開いた。
「でも今はリナたちと共に旅をする仲間ですから、気にしないで、アメリアって呼んでくださいね」
 彼女の顔は、まさしく王女にふさわしいロイヤルスマイルだった。その完璧な笑顔には、押し付けがましさなど微塵も無い。それでいてどこか逆らい難い、奇妙な迫力に満ちていた。
 その迫力に押され、ゼルガディスは口の中で小さく「ああ」と呟いた。外に漏れたかどうかもわからないような小さな声ではあったが、とりあえず彼女は満足したらしい。満足そうに頷くと、テーブルの上の料理へと戻っていった。実にうまそうにチキンの香草焼きをほおばる彼女の姿は、巫女でも王女でもない、そこいらにいるごく普通の女の子にしか見えない。
 彼女の顔を見詰めたまま、ゼルガディスは自分の皿へと手を伸ばすことができなかった。アメリアもそのことに気付き、不思議そうに首を傾げた。そうするとますます幼く見える彼女の顔を見ながら、彼は今、真剣に後悔し始めていた。
 この女、リナ=インバースよりイカれてる。



 リナとガウリイの胃袋が満たされるのが先か、それともこの小さな食堂中の食料が尽きるのが先か。そんなことを考えながら、ゼルガディスは晩酌を嗜んでいた。
 先程まで彼と一緒に食事をしていたアメリアは、今、ここにはいない。彼女はこの村のたった一人の薬師に請われ、白魔法を教えに行った。医師のいないこの小さな村の中で、依頼人は薬師というよりは傷病受け持つ医師のような存在らしい。「人々を救うため」というフレーズに惹かれたのだろう。アメリアはきっちり一人前のディナーと二人前のデザートを平らげてから、張り切って出かけていった。
 彼女を見送った後も、ゼルガディスはまだ食堂に残っていた。仲間に聞きたいことがあったからだ。しかし、今、あの二人に声をかけるだけの勇気は無かった。

 傍から見ていて気持ち悪くなるほどの食料が二人の口の中へと消えて行き、最後に残ったプリンの一片を、リナがガウリイから奪い、飲み込んだ。静まり返った食堂にガウリイの悲痛な啜り泣きが響き、しかしやがて、ぱんっと小気味良い音がそれを遮った。
「ごちそーさまっ!」
 リナは両手を打ち鳴らし、満面の笑みで食事の終了を宣言した。
 周りからどよめきと喝采が起きる。彼らが食事を始めてから段々とギャラリーが増えていき、とうとう食堂には入りきれず、窓から覗くものまで出てくる始末だった。
 この小さな村の連中はよっぽど娯楽に飢えているらしい。ゼルガディスはフードをかぶったまま、片隅のテーブルでため息をついた。彼はこの食堂の中でも一番薄暗い隅の席を陣取っている。片や、満足げなリナといまだ恨めしそうなガウリイがいるのは、食堂の中央付近。彼らが一緒に入って来たのを見た人間でなければ、片隅で一人酒を飲む男と、今は夫婦漫才に興じる彼らを結びつけることはできないだろう。
 そのことは彼も重々承知している。しかしそれでも、恥ずかしい。
 この体を戻すためならどんな苦難も厭わない彼だが、羞恥にだけは怯んでしまう。これからの道程を思うと色々な意味でため息しか出ないが、目的のためならば仕方ない。
 グラスを空にし、娯楽に飢えた観衆が引くのを待ってから席を立ち、ゼルガディスは彼らの元へと向かった。彼に気付いたリナはスリッパを持ったまま振りかぶった手を止め、ガウリイは片手を上げ陽気に声をかけた。

「よう。どーした、ゼル? トイレか?」
「乙女の前でンなコト言うなーーーっ!!」
 スリッパは、吸い込まれるようにガウリイの頭にヒットした。それを見て、ゼルガディスはもう一杯酒を飲んでおくんだったと後悔したが、今更言ってもどうにもならない。彼は声をかけてきたガウリイは無視し、リナに向かって問いかけた。
「おいリナ、あの女は一体なんなんだ?」
「……アメリアのこと? あの子はあーゆー子よ」
 リナは眉をひそめ、不機嫌そうにそう答えた。彼女らしい簡潔な答えだが、知りたい答えではない。
「そういうことじゃない。あの女、自分はセイルーンの王女だとぬかしていたぞ」
「そりゃ王女様だもん。そう言うわよ。言い忘れてたけど、あの子はセイルーンの第一王位継承者の二番目の娘よ。全っ然、そうは見えないけど」
「あー、そういえばアメリア、お城に住んでたもんなー」
 思いもかけない肯定の言葉に、彼はしばし言葉を失う。何を馬鹿なと一笑に付してしまいたかったが、リナの声に含みは無い。何よりも、あのガウリイがあっさり同調している。打ち合わせも無しに彼が引っ掛けの片棒を担げるなんて、不可能に近い。いや、例え打ち合わせがあったとしても、かなり不可能に近い。
「…………何をやらかしたんだ。誘拐か? それとも何かの人質か?」
「ちょっと! あんたどーゆー目で人のこと見てんのよ!? 言っとくけど、アメリアが無理やりついて来たんだからねっ」
「あの女が本当に王女なら、それで済むはず無いだろう。だいたい親が第一王子なら…」
「だあーっ!! あのヒトをおうぢって言わないでーーーっ!!!」
 いきなりの悲鳴に、ゼルガディスは一歩後退りをしてしまう。しかしガウリイは全く動じず、どうどうとリナをなだめている。年季の違いだろうか。それとも単に、事態を理解していないだけなのか。
 ゼルガディスには、その判別がつかない。あるいはその両方なのかもしれない。ただ、再会する度に彼らの互いに寄せる信頼の深さが増していることだけは、ひしひしと感じられた。一人旅をしてきたゼルガディスには、それが重くうっとおしいものに思える一方で、それに眩しい羨望を覚えてしまうことも否めない。

「まったく……で、結局なんなのよ? アメリアに聞きたいことがあるんなら、本人に聞きなさいよ。あ、それとも何、本人には直接聞けないようなことなのかしら〜?」
 ニヤニヤとしたからかいの表情で尋ねてくるリナに、ゼルガディスは冷めた目で答える。
「本人とまともな会話ができるようなら、そうしている。自覚がない分、ある意味旦那よりもタチが悪い」
「はははっ、確かにオレ、時々みんな何言ってるのかさっぱりわかんないもんな〜」
「……それは時々どころじゃないだろう」
 朗らかに笑うガウリイに、呆れたようにゼルガディスは言う。いつもならば真っ先にツッコミを入れるはずのリナがそうしないことに不審を感じ、彼女を見ると、眉をしかめた厳しい表情でこちらを睨んでいた。
「だから結局なんなの? アメリアのことが気に入らないってこと? 確かにあの子は正義オタクで世間知らずで、一緒に行動してると思わず爆裂陣したくなっちゃうような恥ずかしいことを日に三度はやらかすけど、それがそんなに気に入らないっての!?」
「いや、何もそこまでは……」
「じゃあ何、あの子が王女様なのが気に入らないの? 今の今までそんなこと言ってなかったじゃない。そりゃあの子と気が合いそうには見えなかったけど、でも仲が悪そうにも見えなかったわ。むしろ、あんたにしては随分気を許してるように見えたんだけど」
 リナの顔は真剣だった。その問いかけに、ゼルガディスは返す言葉が見つからなかった。言われたとおり、アメリアの素っ頓狂な行動にうんざりすることはあっても、疎ましいと感じたことは無かった。なのになぜ今、自分はこんなに苛立っているのか。

「何が気に入らないんだか知らないけど、あの子が王族だってコトはあんたが合成獣だってコトとおんなじくらい、どーでもいいことよ。あたしの中ではね。あとそれからっ、あたしの前でアメリアのこと、あの女とか言うのやめてよね。あの子はあたしの、ト、トモダチなんだからっ!!」
 照れているのだろう。台詞の最後のほうは早口で、顔も真っ赤になっていた。
「……あんたにトモダチなんていたんだな」
「うっさい! トモダチ一人もいなさそーなあんたに言われたくないっ! あーもうっ、寝るっ!!」
 自分でもわかっているし、別に悲観しているわけでもないのに、改めて人に指摘されるとちょっぴり悲しいのは何故だろう。ゼルガディスはリナの言葉に少なからず傷つき、そしてその事実にますます傷ついたのだが、彼女はそんなこと知る由もない。足音も荒く席を立ち、二階の自室へと肩を怒らせ歩いていった。

「……おいゼル、言いすぎだぞ。何でそんなにイライラしてんのかわからんが、リナにぶつけること無いだろう。アメリアだって、ちょっと変わってるけどいい子だぜ」
 ガウリイの声はいつもと同じ穏やかな調子だった。その声音に苛立っていた気持ちが凪いでいく。剣の腕だけではない。こういうときに、この男との器の違いを思い知らされる。リナの隣に立っている男がこの男で無かったならば、きっと自分は認められなかっただろう。
 ゼルガディスは食堂の主人に酒を注文し、さっきまでリナの座っていた席に乱暴に腰を下ろした。
「オレさー、ちょっと安心してたんだぜ。お前がアメリアと、結構楽しそうに話してるの見て。前見たときはもっと、オレたち以外にはなんかちょっと壁を作ってたみたいな感じだったからさー」
「……そうだとしても、別にあんたが心配することじゃないだろう」
「いや、心配してるのはお前のことじゃなくて、こっちのこと。アメリアと一緒に旅するようになってからさー、リナってばアメリアとばっかしゃべってるんだぜ。オレもやっぱり女の子の会話ってやつには入れないしさ」
「そんなことくらい自分で解決しろ。俺に頼られてもどうにもできん」
「そりゃそーなんだけどな」
 ゼルガディスは運ばれてきた酒をグラスに注ぎ、一気に煽った。それから酒瓶を傾けるような仕草でガウリイに酒を勧めたが、彼は手のひらを見せ断った。
「オレはこれからリナを宥めに行って来る。きっと今頃、盗賊いぢめの準備をしているだろうからな」
「ご苦労なこった。あんたの保護者ぶりには頭が下がるよ」
「まー、好きでやってることだからな。お前もちゃんと、アメリアに謝っとけよ」
「謝る? あの女に?」
「あの女じゃない。アメリアだ。お前、アメリアが嘘ついてると思ってたんだろ? 悪いと思ってるなら謝っとけよ。そのほうがすっきりするぜ」
 ゼルガディスは空のグラスを見詰めたまま、何も答えなかった。ガウリイはそんな彼の様子をしばらく見ていたが、一つ息をはき、立ち上がった。
「じゃあな。明日になったらリナにも謝れよ。あいつ、自分のことでも怒るけど、人のことにはもっと怒るから。あ、あとオレがなってやってもいいぞ」
「……何がだ?」
「トモダチ」
「……………………その気持ちだけで十分だ」
 長い長い沈黙の後、ゼルガディスは何とか、それだけ言った。






NEXT





BACK